当ブログでは大阪の発展を願いながら、地味にその魅力を発信しています。
本日は、大阪関連の書籍についての感想(書評)を記してみたいと思います。
確率思考の戦略論:USJでも実証された数学マーケティングの力の書評
著者は森岡毅氏、今西聖貴氏。この本を読んで、この方々にとても興味を持ちました。
大阪経済の発展に関心を持っている当ブログですので、USJの復活についても多少ウォッチはしていたのですが、この本を読んで内情を知ると、外から見ていたのとは全然違う明確な「戦略」があったことが理解でき、目から鱗です。
市場において我々がコントロールできるのは、プレファレンス×認知率×配架率。それがこの本のエッセンスです。詳しくは本をお読みください 笑
以下は、独自視点からの感想を述べたいと思います。
映画コンテンツオンリーからの脱却について
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンはある時期から純映画コンテンツからの離脱をはかり、ユニバーサル・ワンダーランドなどの「家族向けコンテンツ」の充実にかじをきり、さらにさまざまなアニメとのコラボレーションも実現していくわけですが、外から見ると「まるで迷走している」ように見えた時期があります。
「純映画コンテンツ」であるという、オンリーワンの存在感を捨ててしまうという路線に、私個人としては冷ややかに見ていたときがありました。
しかし、この本を読むと、この路線変更が「迷走」ではなく、「綿密な戦略」に基づいたものであることが分かります。
すべてはハリーポッターでの勝負に勝つため、認知率90%を達成する
USJの復活はウィザーディング・ワールド・オブ・ハリーポッターの成否にかかっている。そのために、ある数学モデルに従うと日本全国でUSJの認知率90%(=子どもからお年寄りまで含めて!広告を打つだけでは達成不可)を達成しなければならない。
その困難な目標のために、手を打っていきます。
「純映画コンテンツ」である限り、子供をターゲットにした家族連れのリピーターが限られてしまうために、”あえて純映画路線を放棄する”することで家族連れ層を取り込むという選択だったわけです(=プレファレンスを高める)。
ハリーポッターの開業に合わせて安倍総理とケネディ米国大使が来園した件について
2014年のウィザーディング・ワールド・オブ・ハリーポッターの開業にあわせて、安倍総理とケネディ米国大使がUSJに来園したときの報道を覚えています。安倍総理はともかくとして、ケネディ米国大使が来たことで、USJは「世界のユニバーサル・スタジオ・ジャパン」としての「格」を手に入れたという印象を受けました。
しかし、これは「たまたま起こったこと」ではなく、数々の仕掛けの総仕上げであったことが、本を読むと分かります。個人的には、この部分が一番面白かったです。
その仕掛けの一つが、「USJが注目すべき成長企業であること」を日本中に認識させるために、”USJのジェットコースターはなぜうしろ向きに走ったのか”というビジネス書を書いたということです。
このビジネス書がベストセラーになったことで、いわゆる業界のプロがUSJに注目するようになったとのことです。
それまで、東京のメディアには見向きもされなかったUSJですが、このビジネス書のヒットが基盤となって認知度が高まり、やがて安倍首相とケネディ米国大使の来園へとつながっていったということです。
数学マーケティングは役に立つか?
全体としては「数学マーケティング」に関する書籍となっており、負の二項分布やガンマ分布に基づくマーケティング戦略が、具体的な数式を使って書いてあってとても興味深かったのですが、やはり一番面白かったのは「ハリーポッター開業に向けて認知率90%を達成する」というための具体的な方策に関しての部分でした。
ただ、その目標を達成する一つのステップとして、”USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか”というビジネス書を作成しています。こういう具体策については数学モデルはあまり関係なくて、結局森岡さんらの「センス」によるところが大きいよな~という印象も持ちました。
数学モデルは事象の分析には役に立つけど、戦略には結局センスが必要。
そんな感想です。
まあでも、迷い多きビジネスの世界で、判断を行うための軸として数学モデルを使うというのは、非常に理にかなっていると思います。
そして何より、この著者の方々の最大の功績は、USJの売り上げが向上したことではなく、USJをマーケティング分析ができる組織に作り替えたということだと思います。教育は組織を変えます。
現在、著者の方々はマーケティング分析会社を立ち上げておられるようですが、いずれまた大阪の発展のために力を発揮してほしいと強く願います。(大阪府・市はアドバイザーとしてこの両者を招聘されてはいかがでしょうか?)